「学問のすすめ」を読んで 福沢諭吉
現代語訳・解説:檜谷昭彦 三笠書房
その一部を紹介したい
1、勉強しない人ほど損な人はいない
①ただの「知識の問屋」ではいい飯は食えない
学問の目的は、知識・見聞を広め、ものの道理を理解し、人間としての責任を自覚することにある。知識や見聞を広めるためには、他人の意見を聞き、自分自身の考えを深め、書物を読むこともせねばならない。だから学問するには当然文字を知る必要があるが、昔の人が考えたように、文字を知ることが学問だというのは大きな間違いである。文字を知ることは学問をするための道具であり、建築に使うトンカチやのこぎりと同じだ。それらは家を建てるのにかかせぬ道具だが、その名前だけを知って家を建てようと考えるものは大工でない。同様に、文字を知っていても、ものの道理を十分に心得ぬ者は、学に志す人間とは言えない。諺に言う「論語読みの論語知らず」である。
数年間の辛苦を重ね、多額の学費を使って、洋学を身につけても、自分の独立した生活さえ立てられない者は知識の問屋にすぎない。それはめしを食う字引であり、国のためには無用の長物、国家経済にとっては有害なごくつぶしといっていい。
世を渡るのも学問であり、商売の帳簿をつけるのも、時代の情勢を見つめるのも学問である。和漢洋の書物を読むことだけが学問ではない。