◆第31号2007年8月12日

新入社員が定着して伸びる教育の本質は「守・破・離」

 
 今年入社した、新入社員が早くも転職を希望しているという驚くべき記事がありました。人材紹介最大手のリクルートエージェントには6月半ばで、前年同期2倍の新入社員が転職を希望しているそうです。他の人材紹介会社でも前年より2倍〜4倍の転職希望者が集まっています。皆さんはこの現実をどう受け止めますか。私は、企業が大量の新卒採用を進めた結果、人材と職場のミスマッチが増えたことと、管理職が新入社員に対してキチンとした指導ができていないことに原因であると考えます。最近では、採用した新入社員が簡単に辞めないように「リテンション教育」を実施したり、「メンター」と呼ぶ指導者を新人につける制度を導入する企業が増えています。入社2年目から5年目の先輩社員が新人社員に半年間マンツーマンで業務を教え、メールで毎日業務の復習、月1回の面談をして仕事を教えています。これが本当に新入社員の指導になっているのでしょうか。先輩社員に対して、メンターとしての教育をしたのでしょうか。ただ、新入社員を辞めさせないための手段であるような気がします。教育とは、教え育むことです。彼らに期待と愛情を持って、長期的にあらゆる機会を通じて、繰り返し教育をし、育てていくものです。彼らが人生観、仕事観を確立していくことは、すぐにできるものではありません。だからこそ、初期教育の時点から継続的にそれらを確立していく基礎づくり教育が必要なのです。
ところで「守・破・離」という言葉があるのをご存知でしょうか。「守・破・離」は、物事を学び始めて独り立ちするまでの段階を示した概念です。もともと能を確立した世阿弥の教えであり、柔道・剣道・空手や茶道・華道・歌舞伎などの習い事などをするときに語り継がれてきた言葉です。まず「守」は、指導者から教えられた基本や型を徹底して繰り返し身につける段階、「破」は、基本や型を守り抜いたうえで革新の手を加える段階(自分なりに工夫したり、新しい要素を加えたりする)、「離」はさらに自分なりの工夫を加えて、自分自身のスタイル、独自の道を確立させる段階、というものです。つまり、どんな道、どんな職業であれそれを極めていくためには、「守」である基本や型を徹底して学ばなければならないということです。
新入社員教育において、考え方や基本を徹底的に身につけさせないまま現場に配属してしまうとどうなるか。仕事が上手くできるわけがありません。上司や先輩に対して、冷たい人だと人間関係に不安を感じてくるでしょう。特に、最近の若者は根気がないため、仕事が上手くできないとすぐに「この仕事は自分には向いていない」と判断して辞めていくようです。たとえ辞めないにしても、すぐに現場に出ろという教育では、基本や型をキチンと習得できていないため、自己流に陥り、ある程度のところで伸び悩んでしまう社員しか育たなくなってしまいます。
一般的に、「学ぶ」は「まねぶ」、つまり「まねをする」が語源であると言われています。私は新入社員研修で「良い先輩社員のまねをして仕事を学べ」とよくお話をします。ところが、新入社員が学ぶべき理想の上司や先輩がなかなかいないことも大きな問題であると感じています。理想の上司やメンターのような先輩がいないことが、若手社員が会社に見切りをつける真の原因ではないでしょうか。
どんな仕事でも「守・破・離」が大切です。上司・先輩は「守・破・離」を再確認すると共に、新入社員にもこの「守・破・離」を教えるべきです。特に、経営理念や経営哲学をしっかり叩き込むことが伸びる社員を育てる秘訣です。崇高な経営理念やビジョンがなければ「破」に気づくことはできないものです。ですから、今の即戦力化といわれる教育には大きな弊害が出てきています。真の教育とは、知識・スキルを短期で身につけさせることではなくて、理念・哲学をキチンと習得させて、徹底的に基本や型を繰り返し教え込むことです。当たり前のことが当たり前にできるようになるまで、膨大な時間とエネルギーがかかるものと心得なければなりません。経営者・管理職は今こそ先人の教えにゆっくり耳を傾けてはどうでしょうか。

お問合せ・ご相談はこちら

ご不明点などございましたら、
お電話もしくはお問合せフォームよりお気軽にご相談ください。

お電話でのお問合せはこちら

06-6228-8152

社員から尊敬され1年でバトンタッチできる経営者に育成する「後継者個別指導 鋳方塾」を運営し、二代目教育に注力!